東京高等裁判所 昭和29年(う)2813号 判決
被告人 竹内正昭 外二名
〔抄 録〕
一、弁護人控訴趣意第一点について。
案ずるに、原判決が、所論指摘の原判示昭和二四年一二月の物品税及び取引高税につき各逋脱の事実を認め、被告会社に対し、前者につき昭和二四年一二月二七日法律第二八六号附則第八項第二項、右法律による改正前の物品税法第二二条第一八条第二一条(第一条第一項第一種戊類八九号第二条第四条第一〇条第八条)を適用し、後者につき昭和二四年法律第二八五号附則第三項第一〇条右法律廃止前の同年法律第四三号改正取引高税法第四一条第一項第三号(第一三条第一五条)第四八条第四七条を適用し、被告人竹内邦博同竹内正昭に対し、物品税法違反につき前記改正前の物品税法第一八条第二項(以下省略)を適用し、取引高税法違反につき昭和二四年法律第四三号改正前の取引高税法第四一条第三号(以下省略)を夫々適用していること洵に所論のとおりである。
ところで、壜罐詰類に対する物品税が昭和二四年法律第二八六号により改正された物品税法により昭和二五年一月一日から撤廃され又取引高税法は昭和二四年法律第二八五号により同二五年一月一日から全廃されたものであることも亦所論のとおりである。
然るに前記法律第二八六号附則第八項及び法律第二八五号附則第一〇項には、孰れも「この法律施行前なした行為に関する罰則の適用については、なお従前の例による」旨規定しているから、右各法律施行前の違反行為に対しては右各法律施行後と雖も、尚物品税法及び取引高税法の各罰則を夫々適用すべきであるが、右各法律施行後の違反行為に対しては従前の物品税法及び取引高税法の罰則を適用し得ないことも正に所論のとおりである。
そこで所論指摘の原判示昭和二四年一二月分の各物品税及び取引高税であるが、本来これらの逋脱罪等の成立は前者にありては昭和二五年一月末日を経過することにより(物品税法第一〇条)、後者にありては同年一月一〇日を経過することによるものであつて(取引高税法第一三条第一項)、各その時期を経過する迄は違反行為として完成しない筋合であり、従つて亦前記昭和二四年一二月分の物品税及び取引高税法違反罪は成立するに由ないものと謂はなければならない。然るに前記法律第二八六号附則第二項は「この法律施行前に課した又は課すべきであつた物品税については尚従前の例による」と規定して居り又法律第二八五号附則第三項は「この法律施行前に取引金額を受領した取引に係る取引高税については尚従前の例による」と規定していること明文上疑の余地がなく、而して此の規定の趣旨とするところは改正法施行前に課した又は課すべきであつた物品税及び改正法施行前に取引金額を受領した取引に係る取引高税は孰れも改正法施行後と雖も総べて従前の例によるべき旨を宣明したものに外ならない。果して然らば、本件における原判示昭和二四年一二月分の物品税及び取引高税たるや孰れも前記法律第二八六号附則第八項及び法律第二八五号附則第一〇項各所定の「この法律施行前なした行為」に該当するものと解すべきを相当とし、従つて亦原判決が右昭和二四年一二月分の物品税及び取引高税逋脱行為を処罰したのは正に当然の筋合であつていささかも違法の廉あるを見ない。此の点の論旨は独自の見解を主張するものであつて到底採用し難く、論旨はその理由がない。
二、前同第二点について。
元来物品税逋脱罪にせよ取引高税法違反罪にせよ各月毎に成立する犯罪にして、これが犯罪事実を判決に判示するに当つては、前者については如何なる物品につき如何なる数量につき何時如何なる税額を逋脱したものかを、又後者については何時如何なる取引金額につき如何なる税額を免れたかを各月毎に特定し得る程度に表示するを以つて足るものと謂わなければならない。本件について観るに、原判決添附の物品税法違反一覧表によれば、移出年月、品名、数量、税込価額、税額の各欄を設けて居り、而してこれが移出年月及び品名、数量、税込価額、税額については各月毎にその合計額が記載されて居り又原判決添附の第一取引高税法違反一覧表によれば、取引日時、取引金額、税額、取引先の各欄を、同第二取引高税法違反一覧表によれば、取引年月、取引金額、税額、取引者の各欄を設けてそれぞれ取引の年月日、取引金額、税額、取引先等を記載されて居るのであつて、毫も犯罪事実の判示として欠くるところがないのみならず、原判決挙示の証拠を仔細に比較検討すれば、自ら物品税逋脱罪については、各品目、数量、税込価額及び税額を個々に知ることができるし、又取引高税法違反罪についても、個々の取引先、取引金額及び税額を知ることができるのであつて、原判決には所論の如き理由不備の違法は存在しない。所論は独自の見解であつて到底採用し難く、論旨は総べてその理由がない。
三、前同第三点について。
所論指摘の各証拠書類につき差戻後の原審において他の証拠書類等と共にその第一回公判期日(昭和二八年一〇月三〇日)に検察官より取調の請求がなされ、該公判においてその取調が留保され、第二回公判期日(昭和二八年一二月四日)において原審弁護人より何れも証拠とすることに同意しない旨の陳述があつたにかかわらずその取調があつたこと、而してこれを原判決に証拠として採用していること正に所論のとおりである。
ところで記録を調べて見ると、右各証拠については差戻前の第一審において被告人がこれを証拠とすることに同意していることが洵に明らかである。かくの如く被告人において証拠とすることに同意している以上、破棄差戻しの理由が、該手続を無効とするものでない限り、その同意の効力は有効に存続し、更にその同意を要せずしてこれを取調且つ採証出来るものと解するを相当とする。従つて原判決がこれを証拠として取調且つ採用しているのは相当であつて、毫も違法の廉あることなく、論旨はその理由がない。
四、前同第四点について。
按ずるに、被告人が控訴をし又は被告人のため控訴をした事件について、原判決を破棄し、事件を原審に差戻した場合には、その差戻しを受けた原審裁判所は、破棄された原判決との関係で、刑事訴訟法第四〇二条所定の不利益変更禁止の制限を受くるものと解すべきを相当とする(同趣旨最高裁判所昭和二六年(れ)第三二〇号同二七年一二月二四日大法廷判決、最高裁判所判例集第六巻第一一号二二九頁参照)。
ところで本件について見るに、差戻前の第一審判決と差戻後の原判決との量刑を比較すれば
一、被告会社に対して
(1) 物品税法違反罪につき
差戻前の第一審は
昭和二四年三月分につき 罰金 四一三、七〇〇円
同 年 四月分につき 同 二四八、二〇〇円
同 年 八月分につき 同 二〇八八、九〇〇円
であるのに、差戻後の第一審は
昭和二四年三月分につき 罰金 四一四、二〇〇円
同 年 四月分につき 同 二六四、二〇〇円
同 年 八月分につき 同 二〇八九、五〇〇円
となつて居り
(2) 取引高税法違反罪につき
差戻前の第一審は
昭和二四年一月二二日の取引に対して 罰金 一、四〇〇円
同 年 六月分取引に対して 同 三、九二〇円
であるのに、差戻後の第一審は
昭和二四年一月二二日の取引に対して 罰金 一、四一八円
同 年 六月分取引に対して 同 四、一九〇円
となつて居り、又
二、被告人竹内正昭に対して
差戻前の第一審は、懲役六月、執行猶予二年の判決を言渡したのに、差戻後の第一審は、懲役八月、執行猶予二年の判決を言渡して居るのである。
されば右摘録にかかる部分については、原判決は、被告人のため控訴をした事件につき、明らかに差戻前の第一審判決より重い刑を言渡したものであり、斯くの如きは、前記刑事訴訟法第四〇二条所定の不利益変更禁止の制限に違反するものであつて(尤も原判決が罰金刑につき前記の如く量定したのは、当該違反数量につき、差戻前の第一審判決と認定を異にした結果であり、而もその認定は誤りがないのみならず、これに量定せられたる罰金額も、本件両税法の罰則上法定せられたるものであつて、本来科せらるべきものであり、寧ろ正当なるものであるが、前に述べたように、被告人が控訴し又は被告人のため控訴した事件について破棄差戻しを受けた原審裁判所は、破棄された原判決との関係で、刑事訴訟法第四〇二条所定の不利益変更禁止の制限に服すべきものであるから、差戻し前の第一審判決より重い刑を言渡すことができないのである)、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、此の点論旨はその理由があり、原判決は、被告会社及び被告人竹内正昭に関する部分につき到底破棄を免れない。